伊藤あおい日本選手対決 坂詰に完敗


坂詰にストレート
世界ランク103位、第1シードの伊藤あおい(21歳)が7月15日、WTA125エウパゴ・ポルト・オープン(ポルトガル)1回戦に臨み、世界280位、坂詰姫野(23歳)に1-6,1-6で敗れた。
第1セット26分、第2セット24分の試合時間わずか51分。各セット1ゲームずつブレークはしたが、第1セット4ブレーク、第2セット3ブレーク。
7度の自身のサービスゲーム、1度もキープできない完敗だった。
リターンで攻められ
伊藤は、完全にリターンから攻め込まれた。
坂詰は積極的にフォアハンドで打って出た。
1本目を何とかフォアスライスで逃れようとする伊藤だったが、坂詰はいいところに配球され、ニュートラルに戻されても、慌てず騒がず次のチャンスを待った。
キッチリとした態勢で、次は伊藤のバックの強打を待ち構える。
得意のダウンザラインに打ち込んでくるのを、読み切ったように、カウンターでフォアのクロス返球。
伊藤の次のフォアでミスを引き出した。
第2セット以降、伊藤は、よりネットに多く出て活路を見出そうとしたが、
坂詰は華麗なパッシングショットを放ち、一歩も引かなかった。
伊藤はフォアスライス一辺倒ではなくスピンも交え始めたが、最終的にミスを先にするのは、やはり伊藤の方だった。
伊藤のサービススタッツ | ||
1stサーブ確率 | 72.1% | 31/43 |
1stサーブPW | 29.0% | 9/31 |
2ndサーブPW | 25.0% | 3/12 |
サービスPW | 27.9% | 12/43 |
PW=ポイントウォン |
伊藤のファーストサービスインの確率は72.1%とむしろよかった。
だが、ポイント獲得率はファーストわずか29.0%、セカンドも25.0%。
第2セットは第4、6ゲームはいずれもラブゲームで自らのサービスを落とした。
自らのリターンゲームでも、相手サービスで徹底的にフォアを狙われた。
フォアスラの1本目の返球を起点に、焦らずキッチリと坂詰の形に持ち込まれるパターンに、ここでも屈した。
3年前も完敗
相手の坂詰とはWTA、ITFツアーでは初の顔合わせだが、3年前に対戦経験がある。
伊藤がまだ18歳、サリュートテニス専門学院所属で出場した2022年10月の全日本テニス選手権準決勝だった。
瀬間詠里花、今西美晴の上位シードをなぎ倒して来た伊藤に対して、第1シードの坂詰は万全の警戒心と対策を持ってコートに立った。
当時の坂詰のコメントを見ると、得意のバックを打たせず「フォア狙い」、コースチェンジを減らし「カウンター封じ」を意識していたことが分かる。
今でこそ、「対伊藤のベーシックな対策」だろうが、この作戦に対した伊藤は、ポイントは競りながらも、2-6,0-6とスコア上は完敗していた。そして、坂詰はそのまま全日本初制覇。
月日は流れ、予選上がりの坂詰に対し今回は伊藤が第1シード。
だが、奇しくも3年前と同じく2ゲームしか奪えずに敗れた。
今回の坂詰は、伊藤の成長を見越し、前回以上に、バックのストレートに対するフォアクロスや、伊藤の絶妙なテンポアップに反応するための事前練習を、しっかり積んできていたことだろう。
過去2年 日本選手圧倒も
海外の地で日本選手と対戦し、勝っていくのは簡単なことではない。
1勝で賞金が変わるプロの世界。遠征費がかさむ海外の地での戦いは、当然ながら普段以上に勝ち負けにシビアになる。
だが伊藤の2024年以降の海外での日本人対決を見ると、
この試合前まで8勝3敗、勝率.727と大きく勝ち越していた。
だが、敵もさるもの。
2024年9月W75パースでの清水映里、2025年1月全豪オープン予選での石井さやか、そして今回の坂詰と、
伊藤の海外での日本選手対決は3連敗となった。
伊藤あおいの外国選手と日本選手の2023年以前の勝率 | ||||
試合 | 勝利 | 敗戦 | 勝率 | |
通算 | 128 | 83 | 45 | .648 |
対日本選手 | 68 | 42 | 26 | .618 |
対外国選手 | 60 | 41 | 19 | .683 |
国内の対決も含めた対日本選手全データで見ると、伊藤は2023年まで、日本選手相手に勝率.618。外国選手との戦いは勝率.683。割合としては、むしろ外国選手より日本選手によく負けていた。
伊藤あおいの外国選手と日本選手の2024年以降の勝率 | ||||
試合 | 勝利 | 敗戦 | 勝率 | |
通算 | 138 | 93 | 45 | .674 |
対日本選手 | 44 | 34 | 10 | .773 |
対外国選手 | 94 | 59 | 35 | .628 |
それが実力が伴った2024年以降で見ると、今回の敗戦を入れても34勝10敗、勝率.773。
フォアスラ、ムーンボール、バックのカウンターなど、特徴を相手に悟られていても、伊藤は常に、その上を行く豊富な戦術バリエーションで勝ちきってきた。
そんな状況の中、1年半が経過した。
周りも手をこまねいているばかりではない。
今回の敗戦で伊藤は自分が追われる立場になっていることを、実感したことだろう。
伊藤あおいの外国選手と日本選手の通算勝率 | ||||
試合 | 勝利 | 敗戦 | 勝率 | |
通算 | 256 | 169 | 87 | .660 |
対日本選手 | 112 | 76 | 36 | .679 |
対外国選手 | 144 | 93 | 51 | .646 |
24年以降 日本選手に敗北7人目
2024年以降、WTA、ITFツアーで日本選手と44試合戦って、負けたのはわずかに10度。
棄権負け2度を除けば、わずか8度、実質7人にしか負けていない。
複数回当たった経験がある日本選手との対戦で見ると、柴原瑛菜(27歳)に2連敗している以外で目立つのは、石井さやか(19歳)に1敗、2学年下の齋藤咲良(18歳)に1敗ぐらい。
伊藤あおい2024年以降 日本選手複数対戦と勝敗 | ||
選手名 | 最高R | 勝敗 |
山口 芽生 | 242 | ⚪️⚫️⚪️⚪️ |
柴原 瑛菜 | 119 | ⚫️⚫️ |
齋藤 咲良 | 150 | ⚫️⚪️ |
石井さやか | 188 | ⚪️⚫️ |
清水 綾乃 | 175 | ⚪️⚪️ |
岡村 恭香 | 178 | ⚪️⚪️ |
加治 遥 | 213 | ⚪️⚪️ |
西郷 里奈 | 317 | ⚪️⚪️ |
輿石亜佑美 | 370 | ⚪️⚪️ |
虫賀 愛央 | 718 | ⚪️⚪️ |
※山口の1敗は棄権負け | 17勝5敗 | |
その他、対戦1度の選手との勝敗 | 18勝5敗 | |
※4敗中1度はリュー理沙マリーに棄権負け |
対戦1度で敗れているのは、棄権負けを除けば、キャリアハイ114位の瀬間詠里花(36歳)、同296位の清水映里(27歳)、同319位の佐藤南帆(24歳)、そして今回の同164位の坂詰の4人だけ。
ストレート負けは、勢いある石井、齋藤にそれぞれ1敗ずつの2度のみ。柴原の2敗以下、瀬間、清水映、佐藤南の5敗すべてフルセット。歴戦のツワモノ相手に、伊藤が激しい攻防を繰り広げている様子が分かる。
しかし今回のVS坂詰のスコアは2セットでわずか2ゲームしか奪えなかった。
2024年以降の日本選手相手では1度もなかったスコアだ。
連戦の疲れもあったのは間違いないが、ただの1敗で済まさず、伊藤も当然、対策を練り直さなければならないと考えているだろう。
100位前半 半年守る力
クレーコートで4戦全敗と苦戦したが、ハードコートシーズン再開初戦、前週のW50コロイオス・セイシャル(ポルトガル)で準優勝。
最新7月14日発表の世界ランクは順位を5つ上げ103位に再浮上した。
今年1月、初戦のキャンベラ国際で優勝して同月6日付けで108位にランクアップして以来、
これで、もう6カ月以上100位台前半を守り続けてる。
簡単に負けがこまないだけの理由が、伊藤には、きっとあるはずだ。
来週は1大会スキップして、WTA1000モントリオールの予選に向かうと見られる。
1度戦い方を完全に知られた相手に、これからどう立ち向かうのか。
次の打開策を見いだせるのか。
新たな興味が生まれている。