小田凱人ウィンブルドン王座奪回


▶「ITF公式インスタグラム」より
宿敵相手に2時間16分激勝
世界ランク1位の小田凱人(19歳)がウィンブルドン車いす男子シングルスで2年ぶり2度目の優勝を果たした。
7月12日、世界2位のアルフィー・ヒューエット(27歳=イギリス)との決勝に臨み、3-6,7-5,6-2で逆転。
2時間16分の激闘を制した。
勝利の瞬間、地元ヒューエットに敬意を表すかのように静かな喜びに留めた。ネット前で健闘を称え合った後、笑顔で喜びを爆発させた。
▶「ウィンブルドン公式X」より
小田の2025年ウィンブルドン勝ち上がり | |||
回戦 | 対戦相手 | スコア | |
1回戦 | ⚪️ | B・バートラム | 6-2,7-5 |
準々決勝 | ⚪️ | R・スパーガレン | 6-1,6-4 |
準決勝 | ⚪️ | G・フェルナンデス | 7-5,6-1 |
決勝 | ⚪️ | A・ヒューエット | 3-6,7-5,6-2 |
優勝セレモニーでは「テニスが大好きで大きなスタジアムでのプレーが楽しい。この瞬間を楽しめてます。今とっても幸せです!」と話し、大歓声を浴びた。
グランドスラムは直近3年で6度目の優勝となった。
小田の全グランドスラム成績 | ||||
全豪 | 全仏 | ウィン | 全米 | |
2025 | 準V | 優勝 | 優勝 | ? |
2024 | 優勝 | 優勝 | SF | ー |
2023 | 準V | 優勝 | 優勝 | 1R |
2022 | ー | SF | QF | QF |
通算 | 10勝 2敗 | 15勝 1敗 | 9勝 2敗 | 1勝 2敗 |
※2024年パリ・パラリンピック シングルス金メダル、2024年全米は不開催 |
序盤 強烈リターンに苦しめられ
頂上決戦にふさわしい、手に汗握る展開だった。
立ち上がり、小田はヒューエットのリターンに苦しめられた。
第1セット2度ブレークするが、4度ブレークされて3-6で落とす。
持ち味のはずの小田のサーブが読まれ、ことごとく強烈なリターンを浴びた。
ヒューエットはこのセット、5度のリターンウィナー、リターンポイント獲得率は61%。
いずれも小田を上回った。
第2セット中盤から逆襲
第2セットも中盤まで互いに2度ずつのブレークで3-3。
先にヒューエットにキープされて3-4ダウンとなった。
もうブレークは1つも許されない苦しい状況になったが、ここから小田のサーブの精度は上がる。
第8ゲーム、フォアの鮮やかなドロップショットや、深いサービス2本でリターンミスを誘い、キープに成功。ゲームカウント4-4。続く第9ゲームはウィナー3本でブレーク。第10ゲームにブレークバックを許すが、第11ゲームで再び3本のウィナーでブレークし返し6-5。
このセット最後はキッチリサービスキープして7-5にモノにした。
第2セットは小田が11本のリターンウィナー、リターンポイント獲得率は61%と逆転。
最終セット オールキープ
最終セットは6-2と圧倒した。
小田の相手の読みを外したサーブがヒューエットのリターンを、ついに沈黙させた。
ここまでのブレーク合戦がウソのように
4ゲームのサービスゲームをすべてキープし、2ブレーク。
リターンウィナーは1本も許さなかった。
両者の決勝 リターンポイントウォンとリターンウィナー数 | ||||
小田 | セット | ヒューエット | ||
RPW | RW | RPW | RW | |
54% 13/24 | 3 | 第1S | 61% 17/28 | 5 |
61% 20/33 | 11 | 第2S | 49% 25/51 | 7 |
50% 19/38 | 7 | 第3S | 30% 8/27 | 0 |
55% 52/95 | 21 | 通算 | 47% 50/106 | 12 |
※RPW=リターンポイントウォン、RW=リターンウィナー数 |
ピンチになればなるほど、振り切ったスイング。
強烈なスピンがかかったボールが吸い込まれるようにベースラインギリギリに落ちるシーンが目立った。
小田の今大会ウィナー数とUE数 | ||
回戦 | ウィナー | UE |
1回戦 | 28 | 19 |
準々決勝 | 26 | 10 |
準決勝 | 21 | 8 |
決 勝 | 53 | 30 |
※UE=アンフォーストエラー |
アンフォーストエラーは小田30本に対してヒューエット18本と、試合巧者の健闘が光った。
だがウィナー数はヒューエット40本に対して小田が53本。
きっちり攻めきり、リターン&サーブ勝負で上回った小田が、見事な逆転劇を可能にした。
ヒューエットに連勝
これでヒューエットに全仏決勝、ウィンブルドン決勝と連続で勝利。
きっちりと1月の全豪決勝で敗れた借りを返した。
特に地元で大声援を浴びるヒューエットを「聖地」でも退けた、意味は大きい。
過去の両者のグランドスラムとパラリンピックの直接対決を見ると、すべて決勝でぶつかり、
6勝2敗と小田が大きく勝ち越している。

それ以外の大会を含めても両者の直接対決は、小田から12勝9敗となった。
2022年2月から2023年3月までは小田の1勝6敗。2023年6月から2024年3月までは小田が4連勝の後に2連敗。
そして2024年4月以降の戦いでは小田の7勝1敗。
小田から見たVSヒューエット勝敗 | ||
22.2-23.3 | 23.6-24.3 | 24.4-現在 |
⚫️⚫️⚪️⚫️⚫️⚫️⚫️ | ⚪️⚪️⚪️⚪️⚫️⚫️ | ⚪️⚪️⚪️⚪️⚪️⚫️⚪️⚪️ |
「宿命のライバル」の研究や工夫を超える進化を、小田がキッチリと果たしている証拠だろう。
ウィンブルドン複数回制覇
小田のウィンブルドン制覇は2023年に続く2年ぶり2度目。
2016年から始まったウィンブルドンの車いす競技で、過去、複数回優勝したのは、2017、18年と連覇したステファン・オルソン(38歳=スウェーデン)だけだった。
小田は、オルソンに続く、史上2人目のウィンブルドン複数回優勝者になった。
過去10年全仏 ウィンブルドン優勝者 | ||
全仏 | ウィン | |
2016 | G・フェルナンデス | G・リード |
2017 | A・ヒューエット | S・オルソン |
2018 | 国枝慎吾 | S・オルソン |
2019 | G・フェルナンデス | G・フェルナンデス |
2020 | A・ヒューエット | ー |
2021 | A・ヒューエット | G・ジェラード |
2022 | 国枝慎吾 | 国枝慎吾 |
2023 | 小田凱人 | 小田凱人 |
2024 | 小田凱人 | A・ヒューエット |
2025 | 小田凱人 | 小田凱人 |
※ウィンブルドンの車いす競技は2016年から、2020年は開催せず |
また球足が遅くボールが弾む赤土の全仏と、球足が速くあまりバウンドしない芝のウィンブルドン。この両極端のサーフェスを、短期間で連続優勝するのは、非常に難しいとされる。
同シーズンの連続優勝を達成した男子は、2019年のグスタボ・フェルナンデス(アルゼンチン)、2022年の国枝慎吾、そして2023年の小田と、今回の小田。
全仏、ウィンブルドンを同年連続優勝を、複数回達成した史上初の選手にもなった。
次は最年少ゴールデンスラム達成へ
「一瞬一瞬を楽しんでテニスをしていますが、もちろん、今は全米オープンが最優先事項です」と小田が言うように
次の照準は、間違いなく唯一優勝経験がない全米オープンだ。
車いす男子シングルス1回戦は9月3日に始まり、決勝は9月6日予定。
ここで全米タイトルを獲得すれば、国枝慎吾ら史上4人目、19歳3カ月での最年少キャリア・ゴールデンスラム達成となる。
ほぼ1年前の2024年9月7日、史上最年少18歳3カ月でパリパラリンピックを制している。4年に1度の巡り合わせを考えれば、
生涯抜かれることはない「大記録」になるかもしれない。
地元でヒューエットを退けた。数えればITFツアー16連勝。
さあ、もう小田の「黄金時代」到来と言い切っていっただろう。
次の「歴史的瞬間」が来るのが楽しみでならない。
▶ITF公式インタグラムより ヒューエットへの敬意と全米オープンへの意気込みを語る小田