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天国の母へ 元テニスコーチの全豪挑戦

tennis udon

 2025年の全豪オープンが始まる。錦織も楽しみだが、1回戦で世界が沸く、新たなヒーローが生まれるかもしれないと注目している。ATP公式HPでも大きく取り上げられていたリー・トゥ(Li Tu)28歳。地元オーストラリアの世界172位の選手だ。大会初日、マーガレット・コートアリーナのナイトセッションに登場する。

 2016年のウィンブルドンのマーカス・ウィリス(英国)を覚えている方はいるだろうか。イギリス郊外で子どもたちに教えていた「ただのテニスコーチ」。当時、世界ランクは772位。故障でプロを一旦断念。だが恋人の「あなたを信じてる。だからもう一度挑戦して」の言葉に奮起。見事、本戦出場を果たし、フェデラーと対戦した。完敗だったが、イギリス中が熱狂。そんな素敵な物語のオーストラリア版が生まれるかもしれない。

 コキナキスやキリオスの友人でもあった彼は、2014年、18歳でテニスをやめてしまう。いわゆる「燃え尽き症候群」。アデレード大学に進学し、学士号を取得。テニスから離れることはできず、コーチ業を始める。子どもたちや周囲の仲間を教えているうち情熱が再燃。この間、技術的な多くの発見もあったという。親友から再起の提案を受け「やってみるか」と冗談まじりに復帰。6年のブランクを経て2020年、プロを目指す。当時24歳。

 下部の下部、いわば草大会を経て2021年、ATPツアーデビュー。さらにその年、全豪オープンにワイルドカードでグランドスラムデビュー。だが、コロナ禍で観客は200人ほど。1回戦敗退し、さほど騒がれることはなかった。2021年の世界ランクは521位で終えた。

 

 2022年、最愛の母ユ・ピン・ジェンは肺がんを患っていた。日を追うごとに衰弱。それでも息子の活躍を誇りを持ってもらえるようにと、リー・トゥは看病の合間をぬってより奮起した。しかし9月22日、最愛の母は帰らぬ人となる。葬儀で弔辞を述べた翌日には、チャンレジャーツアーの飛行機に飛び乗った。最後まで母が韓国遠征に臨むことを希望していたためだ。

 母が亡くなって2戦目となる10月10日からのソウルチャレンジャー。内田海智、中川直樹、同胞で完全なる格上オコネル、ダッグワースを撃破して決勝進出。準決勝進出すら初めてのことだった。初のチャレンジャー決勝ではウー・イービンに勝利し、そのまま初優勝。

 試合中、ピンチになるたび、何度も空を見上げた。インタビューで「試合中に母を感じるようになりました。私たちは間違いなく一緒にプレーしたのです」と語っている。誰も想像しなかった優勝は、葬儀から、わずか3週間後のことだった。決勝の翌日、世界ランクは100位以上ランクアップし、190位に。目標だった200位を突破した。くしくも、その日は母の誕生日。生きていれば67歳になるはずの日だった。

 インスタに綴った言葉。「今日はお母さん、あなたの誕生日です。私の人生で最も厳しい2カ月でした。あなたががんと闘い、日々闘い、闘いながらゆっくりと感覚を失っていくのを見てきました。テニスのトレーニングを、私が続けられたのは、あなたが『良くなってる』と後押ししてくれたから。9月22日、あなたを愛してやまない家族たちに見守られ、息を引き取りました。

 「あなたは亡くなる数日前に、私に『韓国で会おう』と言い、私は泣き崩れました。あなたの葬儀の翌日に韓国に来たとき、私にはそれができるかどうかわからなかったけど、試合前には毎回空を見上げて、あなたの姿を見ては、微笑まずにはいられなかった」と続けた。

 そして、胸が張り裂けそうな、この投稿は、こう締めくくられた。「We did it Mum❤」(やったよ、お母さん)

 

 憧れはアメリカ映画の主人公「アイアンマン」。今も戦い続けるのは「若くて、負けに苦しんでいる人たちの手本になりたいから」。物事を取り組むのに「遅すぎることはない」と伝えたいのだそうだ。

 「次はトップ100です。この物語は絶対に終わっていません」。今日、全豪オープニングデー。世界で2番目に大きい、超満員の母国のテニスアリーナで、夢のグランドスラム初勝利に挑戦する。

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追記

 グランドスラムでは、もう1試合だけ、2024年の全米オープンに出場したことがある。アラカラスから1セットを奪って沸かせた。その第2セット、ゲームカウント2ー2、緊迫のデュースで見せた「史上最悪のアンダーサーブ」。ネットの真ん中より下に当て思わず爆笑。中国系の愛されキャラでもある。44分30秒過ぎ

▶US OPEN公式さまの動画です。

 日本のツアーが大好きという。2024年の慶応チャレンジャー。清水悠太がチャレンジャー初優勝を遂げた決勝で、敗れた相手。最後まで諦めないアグレッシブさが印象的だった。

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テニスうどん
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駆け出しブロガー
スポーツ紙勤務30年で退職した元野球記者、データコラムニスト
大学時代は関西1部リーグ庭球部所属もボーラー、ベンチコーチの方が多かった
数字でテニスを深堀り!時々ただの観戦記。わかりやすくテニスの魅力が伝わればと
ATP、WTAの公式データを参考にさせていただいています。
U-NEXT、WTAのテニス配信も利用させていただいています。
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