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シュワルツマン 最後の輝き

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ディエゴ・シュワルツマン(32歳=アルゼンチン)が引退した。いや、この日がラストマッチのはずだったが、勝ってしまった。身長170センチながら、2020年には全仏オープン4強。ツアー優勝4度。世界8位(2022年10月)にまで上り詰めた「小さな英雄」が、最後の最後にまた「伝説」をつくった。

▶全仏オープン公式動画より 2020年準々決勝

この日、故郷のブエノスアイレスで行われたアルゼンチン・オープンでニコラス・ジャリー(チリ)と対戦した。2メートル1センチの長身、世界41位で第7シードの巨人に果敢に挑んでいった。第1セットだけで120分の素晴らしい試合だった。最終の試合時間は2時間53分、スコアは7-6(10!)、4-6、6-3で勝利。何度も吠え、何度も耳に指を当てた。超満員のスタンドから大きな拍手と歓声を浴びた。

試合後のオンコートインタビュー

「正直、負けると思っていたよ。何カ月もプレーしていなかったのに、先週プレーして素晴らしいテニスができた。でも勝てるとは思っていなかった。素晴らしい試合をしたよ。いいプレーができた」。

「試合後、少し泣くだろうから、感情をコントロールしなきゃって想像してたんだけど」

こう言って茶目っ気いっぱいな笑顔を見せた。

なぜ自分より30センチ以上長身の相手に勝てるのか? その疑問への答えを、そのまま体現するような試合運びだった。

第1セット、2ミニブレークされていたタイブレーク0-3からだった。長いラリーから前におびき出し、長い手を伸ばす相手をあざ笑うようなバックのパッシングショット。1-3。直後、簡単にビックサーブから3球目攻撃でウィナーを奪われ1-4。

続くポイント、またもロングラリーから今度は自身が前に出て絶妙なバックのドロップボレー。必死に追いついたジャリーはボールを拾うと同時にネットに直撃。上半身をすべてネットに持たれかけ、まるで逆さ吊り状態になった。そのまま腕立てポーズで観客を笑わせると、シュワルツマンも、最高の笑みを見せた。最高の雰囲気、最高のプレー、最高の試合だった。

▶「Tennis TV」さまのダイジェスト動画

第1セットは3度のセットポイントを逃れて、タイブレーク12-10

マッチのトータルポイントは105ー107で負けていた。それでもコートを広く使って、最後まで縦横無尽にハードワークし続け、そして勝った。

2021年、自身最後のツアー優勝を遂げた、思い出深い大会を、プロツアー人生のラストに選んでいた。

不振にあえぎ、予選を勝ち上がっても本戦で勝てない日々が続いていた。現在の世界ランクは386位。2023年10月の木下オープン1回戦(東京)の勝利を最後にATPツアー本戦では10連敗中だった

楽天オープン、木下オープンでもプレーし、日本のファンも多かった。ほぼ同じ体格で3歳年下の西岡を始めとする日本のプレーヤーにも、間違いなく勇気を与えてくれた存在だった。

本人も含め誰も勝利を予想していなかっただろう。だが、最後に母国ファンの前で素晴らしい輝きを見せた。この日のスタンドでも多くの少年少女が観戦していた。

引退を前に、シュワルツマンは一人称でファンへの「別れの手紙」を寄稿している。ATP公式から、その言葉を引用させていただく。

祖父はユダヤ人でポーランドの強制収容所から逃れてきたという。子どものころから貧しい生活を強いられたことを隠さなかった。

私の家族は経済的に楽ではなかった。私は母親と一緒に旅したが、ホテルにはテレビがなく、ほとんどのトーナメントで、母とベッドを一緒に使っていた一泊2ペソの部屋に泊まったこともあった。私は旅費を稼ぐために必死だった。家族の昔のビジネスで余っていたゴム製のブレスレットを売って、ツアーの旅費を支払ったこともあった。私はトーナメントでもそれを売って回った。手伝ってくれた他の子たちもに利益の一部をあげもした。それで、どうやってここまでやってこれたのか? 本当にわからない

また多くの人に、身長のことを指摘されるのが嫌だったと明かした。幾度となく「低身長の君には無理だ」と、将来の希望を断つ言葉や、体つきに対する冷ややかな興味への質問と、戦ってきたのだろう。

多くの人が僕の身長170センチについて語っていた。僕はキャリアを通じてそれが嫌だった。というのも、大会でいいプレーしているとき、僕の体重、身長、僕の小柄な体つきばかりが話題になったんだ。

身長がなければトップにはなれない、それは本当だ。トップ100に僕と同じ身長の人はほとんどいない。嘘はつけない、大変だったよ。僕はコートの外で一生懸命練習しなければならなかった。対戦相手に僕のパワーが足りないとか、動きが短いとか、そういうことを感じさせないようにね。

身長も大事だが、それ以上に大事なことがある。それは「いいプレーをすることだ」とシュワルツマンは強調した。それこそが、自分が努力を貫き、やり抜いてきたことに対する、プライドである。また、小柄でも、天賦の才能がなくても、世界を目指せるという、未来の子どもたちへのメッセージでもある。

もちろん、テニスをする上で身長はとても重要だ。でも、試合に勝つ方法の50%以上は、コートの外で何をするかにかかっている。『君はファイターだったけど、とても優れたテニス選手でもあった』と言われるのが本当に嬉しいよ。ファイターであるだけでは、このスポーツのトップにはなれないんだ。良いテニスをする必要がある。良いフォアハンド、良いサーブ、良い動きが必要なんだ。

ファイターであるだけではトップにはなれない。私がトップに立てたのは、このスポーツが上手だったからです。誰かが私に才能を与えたわけではありません。自分で努力したのです。

▶「Tennis TV」さまの動画より 

ジョコ、ナダル、錦織らを相手にスーパープレー、本当に大好きな選手

手紙のラストはこう締めくくられている。

「若い頃は、自分が成し遂げられると思っていませんでした。しかし、キャリアを積むうちに、私は知らぬ間に成し遂げていました」

「ディエゴ」の名は、身長165センチ、母国のサッカーの英雄、ディエゴ・マラドーナから名付けられたもの。

家族を守るため自分を信じ続けた。プロツアー生活15年、251勝225敗。獲得賞金1400万ドル以上。本人に怒られてしまいそうだが、改めて言おう。

「身長170センチの男」は、数字だけでは表せない、立派な足跡を残した。

そしてもう1試合、「最高のファイター」の「最高のテニス」が見られる。

次の相手はペドロ・マルチネス。世界41位、身長185センチ。15センチ差に縮まった。

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テニスうどん
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駆け出しブロガー
スポーツ紙勤務30年で退職した元野球記者、データコラムニスト
大学時代は関西1部リーグ庭球部所属もボーラー、ベンチコーチの方が多かった
数字でテニスを深堀り!時々ただの観戦記。わかりやすくテニスの魅力が伝わればと
ATP、WTAの公式データを参考にさせていただいています。
U-NEXT、WTAのテニス配信も利用させていただいています。
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