伊藤あおい世界33位も撃破


快挙WTA1000 連続3回戦進出
世界94位の伊藤あおい(21歳)が8月9日、WTA1000シンシナティ・オープン2回戦に臨み第27シードで、世界33位のアナスタシア・パブリュチェンコワ(34歳)をフルセットの末、破った。スコアは6-1,4-6,6-4。試合時間2時間9分。
今シーズンWTA1000の予選6大会中5度本戦インを決め、前週のナショナルバンク・オープンに続き、またも快進撃だ。
グランドスラムの次に位置づけられるWTA1000で2大会連続の2回戦突破。
WTA1000の初勝利からまだ11日しか経っていないのに、もう4勝目。
2大会連続3回戦進出は、まさに快挙だ。
相手はGSMで9度8強
相手はグランドスラム通算96勝65敗。
全豪4度、全仏2度、ウィンブルドン2度、全米1度と、
グランドスラムで計9度も、ベスト8進出経験ありという、安定感あるベテランだ。
今シーズンも、先のウィンブルドンではアシュリン・クルーガーや大坂なおみを倒している、
そんな文字通りの強敵をも、倒してしまった。
トップ50から4勝
この2大会、予選を含め計8試合を戦った。うちフルセットが6度目。
そのうち5度が勝利と、まさに「フルセットの鬼」だ。
その間、世界9位のジャスミン・パオリーニ(29歳=イタリア)、世界58位の世界58位のエレナ・ガブリエラ・ルーセ(27歳=ルーマニア)、そして今回の33位と、WTAのツワモノたちを次々撃破。
これでトップ50からの勝利は4度目。
もはや一過性の勢いとは考えられない。
これが伊藤のWTAツアー内での現在地。
正真正銘の実力だと言い切っていいだろう。
WTA1000 カタール・トータルエナジー・オープン 2月10日~2月16日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | A・ボンダール | 94 | 4-6,6-3,6-3 |
予選2回戦 | ⚪️ | V・グラチェワ | 70 | 6-2,6-4 |
1回戦 | ⚫️ | J・オスタペンコ | 37 | 2-6,1-6 |
WTA1000 ドバイ・デュティーフリー選手権 2月16日~2月22日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | T・タウンゼント | 83 | 6-3,6-4 |
予選2回戦 | ⚪️ | A・クルーガー | 40 | 7-5,6-2 |
1回戦 | ⚫️ | B・ベンチッチ | 65 | 0-6,2-6 |
WTA1000 BNPパリバ・オープン 3月3日~3月16日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | D・スニガー | 127 | 6-4,1-6,4-6 |
予選2回戦 | ⚫️ | M・イングリス | 134 | 6-7(4),5-7 |
WTA1000 マイアミ・オープン 3月17日~3月30日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | K・エフレモア | 743 | 6-2,6-3 |
予選2回戦 | ⚪️ | E・リス | 78 | 4-6,6-4,6-2 |
1回戦 | ⚫️ | L・デイビス | 229 | 4-6,6-3,4-6 |
ウィンブルドン 6月30日~7月16日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
1回戦 | ⚫️ | K・ラヒモワ | 80 | 7-5,3-6,2-6 |
WTA250 プラハ・オープン 7月21日~7月28日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
1回戦 | ⚫️ | T. ヴァレントヴァ | 106 | 2-6,0-6 |
WTA1000 ナショナルバンク・オープン 7月27日~8月7日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選 | ⚪️ | A・サスノビッチ | 125 | 6-4,5-7,6-0 |
1回戦 | ⚪️ | K・ヴォリネッツ | 108 | 6-2,2-6,6-2 |
2回戦 | ⚪️ | J・パオリーニ | 9 | 2-6,7-5,7-6(5) |
3回戦 | ⚫️ | J・B・マネイロ | 51 | 6-4,5-7,3-6 |
WTA1000 シンシナティ・オープン 8月7日~8月18日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | A・クルニッチ | 354 | 4-6,6-4,6-2 |
予選2回戦 | ⚪️ | D・ガルフィ | 102 | 6-3,6-4 |
1回戦 | ⚪️ | E・ルーセ | 58 | 6-2,7-6(6) |
2回戦 | ⚪️ | A・パブリュチェンコワ | 33 | 6-1,4-6,6-4 |
3回戦 | M・キーズ | 6 |
「先読み戦法」で相手に重圧
パブリュチェンコワ相手に、持ち味の「観察力」が見事に効いた。
第1セットはコードボールなどラッキーなポイントと相手ミスに助けられて、6-1奪取。
第2セットはエンジンのかかった相手に0-4まで攻め込まれたが、徐々に世界33位の強打、フォアへのワイドサーブに対応していく。
通常のタイミングでは間に合わないとみるや、
相手のフォームから事前にコースを読み、ワンテンポ速く忍者のように動く「先読み戦法」。
外れたら仕方ないとばかり大胆に動いた。2ブレークを返し、4-4まで追い上げた。

結局、第2セットは落としたが、決定的な場面を作られても、この先読みで、最後まで相手にプレッシャーをかけ続ける姿勢が、第3セットにつながった。
先にブレークを許した1-2から2度のブレークに成功し、5-2。
その後、2度のマッチポイントをモノにできず、5-4まで追い上げられたが、第10ゲームに、このセット3度目のブレーク。4度目のマッチポイントで、キッチリと勝利を手にした。
何本もディフェンスされたパブリュチェンコワは、やはり伊藤の動きが視界に入るからか、最後までミスを減らせなかった。
フォアスラも効果
フォアスラも抜群の効果を発揮した。
伊藤は試合を通じ、4度のドロップショットを浴びたが、全ポイントを奪った。
うち3度がフォアスラでダウン・ザ・ラインへ返球しての逆転ウィナー。
デュースサイド、強烈なワイドサーブに苦しめられたが、第2セット中盤以降は、「もう分かってる」とばかり、はなから右サイドに飛びつくように、フォアスラリターン。
パワーはあるが、俊敏とは言えない相手と対峙し、要所で浅めに送るフォアスラも光った。
好調維持のサービスでも、相手のリターンミスを誘いまくった。
伊藤が勝ち切るだけの要因はいくつもあった。
試合終盤には、伊藤のプレーの凄さ、愛らしい仕草に惚れ込んだ男性ファンから「ITO!」の大コールが巻き起こった。
日本ナンバー2へ
またも手にした金星。
これで世界ランクも大幅に自己ベストを更新する。
ランクの近い選手もシンシナティ・オープンでの戦いを継続しているため、現時点ではハッキリ言えないが、ライブでは80位台。
内島萌夏が1回戦で敗れているため、伊藤がランキングで上位となることは確実だ。
ナショナルバンクオープンの準優勝で25位前後まで浮上する、大坂なおみ(27歳)に次いで
日本ナンバー2に、位置づけられることになる。
9月にビリー・ジーン・キング・カップのファイナルを控える日本代表・杉山愛監督も追加招集を考え始めても、おかしくない状況にすらなってきた。
獲得賞金5300万円超え
プロの世界、評価は世界ランク、もっと突っ込んで言えば賞金で、その選手個人の価値が計られる。
伊藤は「一番のモチベーションは賞金」「老後生きていけるだけの賞金を稼いで、できれば素早く引退したい」と、あっけらかんと言う面白みのあるプレーヤー。
「お金の話」と言えば聞こえは悪いが、たまには、させてもらおう。
伊藤のナショナルバンク・オープン前までの、今シーズン獲得賞金総額は23万5706ドル、日本円換算で約3460万円だった。
ウィンブルドン本戦1回戦出場の6万ドル(881万円)が大きかったのだが、
この2週間、WTA1000の2大会で、その倍以上、12万7785ドル(1882万円)を手にした。
これにより今シーズンの賞金総額は5300万円を突破した。
ナショナルバンクオープン女子シングルス賞金 | ||
優勝 | $752,275 | 1億1048万円 |
準優勝 | $391,600 | 5751万円 |
ベスト4 | $206,100 | 3027万円 |
ベスト8 | $107,000 | 1571万円 |
4回戦 | $56,703 | 832万円 |
3回戦 | $33,000 | 484万円 |
2回戦 | $19,705 | 289万円 |
1回戦 | $12,770 | 187万円 |
3回戦進出 獲得賞金計$65,475=963万円 |
シンシナティオープン女子シングルス賞金 | ||
優勝 | $752,275 | 1億1048万円 |
準優勝 | $391,600 | 5751万円 |
ベスト4 | $206,100 | 3027万円 |
ベスト8 | $106,900 | 1570万円 |
4回戦 | $56,678 | 832万円 |
3回戦 | $32,840 | 482万円 |
2回戦 | $18,200 | 267万円 |
1回戦 | $11,270 | 165万円 |
3回戦進出 獲得賞金計$62,310=917万円 |
加えて先日、今年最後のグランドスラム、全米オープンの賞金増額が発表された。
9000万ドル(約132億円)と過去テニス史上最高総額となり、
1回戦に出場しただけで、昨年より10%増の110万ドル(1600万円)が手に入る。
伊藤の前年までの獲得賞金ば11万3986ドル(1675万円)。1回戦に出場するだけで、その同等の金額が得られる計算だ。
本人いわく「隠居」「引きこもりニート」を、早々にされてしまっては困るが、上り調子の今、目の前にぶら下がっている「ニンジン」は、さぞ美味しそう見えていることだろう。
全米オープン女子シングルス賞金(男子と同額) | ||
優勝 | $5,000,000 | 7億3447万円 |
準優勝 | $2,500,000 | 3億6733万円 |
ベスト4 | $1,260,000 | 1億8513万円 |
ベスト8 | $660,000 | 9696万円 |
4回戦 | $400,000 | 5876万円 |
3回戦 | $237,000 | 3481万円 |
2回戦 | $154,000 | 2262万円 |
1回戦 | $110,000 | 1616万円 |
次は世界6位キーズ
3回戦の相手は世界6位で第6シードのマディソン・キーズ(30歳=アメリカ)に決まった。
2回戦では、伊藤が2024年木下ジャパンオープン、2025年マイアミ・オープンと、2連勝しているエヴァ・リス(23歳=ドイツ)をフルセット、タイブレークで退けた。マッチポイント2本を逃れて、さすがという逆転劇だった。
言わずと知れた2025年全豪女王。2017年全米ファイナリスト。
他にもグランドスラム準決勝5度、準々決勝5度を誇る。正真正銘の超トップ選手だ。
痛みがあるのか、伊藤の腰を気にする素振りが試合を重ねるごとに増えているのが気になるが
パオリーニより、さらに上位の選手と対戦できる、またとない機会だ。
全米へさらなる自信を
今大会の先には、全米オープンが控えている。
世界ランキング12位のパウラ・バドサ(27歳=スペイン)が8日、故障により全米オープンの出場を辞退した。すでに欠場選手は2人出ており、もともと待機5番手だった、伊藤は現在、2番手にまで上がった。だが、このまま欠場者がでなければ、予選からのスタートで本戦入りには3試合を勝ち抜く必要がある。
予選は8月18日から、本戦は24日から始まる。
無理はしてほしくないが、全米での予選突破、さらには上位進出へ。
キーズ戦を、さらに確固たる自信を付ける一戦にしたい。