伊藤あおい世界6位キーズに敗れる


全豪女王相手に2ブレーク
世界94位の伊藤あおい(21歳)が8月11日、WTA1000シンシナティ・オープン3回戦に臨み、世界6位で大会第6シードのマディソン・キーズ(30歳=アメリカ)に4-6,0-6で敗れた。試合時間1時間2分。

相手のキーズは今シーズンの全豪オープン覇者で、グランドスラム準決勝5度、準々決勝5度を誇るバリバリのトップ10。
第2セットはベーグルをつけられた。スコア的には完敗だろう。
だが第1セットは2-5から相手サーブをブレークするなど2ゲーム連取。計2ブレークに成功するなど、確実に競り合った。
スコアだけで分からない、可能性、手応えは確かに、そこにあった。
▶「WTA公式」YouTubeより
随所に輝き
第1セットで伊藤が、「輝き」を放ったシーンをいくつか振り返る。
頭脳的ノータッチエース
伊藤S第3ゲーム30-15。直前のポイントでボディーサーブで相手のバックのリターンミスを誘っていた直後。アドバンテージサイドでサイドラインいっぱいを突くワイドのフラットサーブを繰り出す。キーズはまったく触れずノータッチエース。
セカンドセンターサーブ
第3ゲーム相手アドバンテージ。セカンドサーブで Tゾーンを突くスライスサーブ。そのまま前に入り、相手の浅くなったリターンを得意のバックのダウン・ザ・ラインでウィナー。世界6位相手に積極果敢、完璧な3球目攻撃成功。
オープンコート捨てる読み
第3ゲーム自分アドバンテージ。相手に完璧なアプローチを許すが、狭いバック側に留まる。フォアサイドのオープンコートを完全に捨てると、相手のボールは読み通りにバック側へ。角度のない位置からバックでストレートへのパッシング。相手ボレーのミスを誘いポイント、ゲームを奪う。
バックの逆クロス
相手S第4ゲーム0‐15。両手バックであえて振り遅れさせたような逆クロスでアプローチ。相手はフォアスラでクロスに返してくるが、フォアのドロップボレーで完璧に料理。
伊藤S第5ゲーム0‐40。従来以上に空中を高く跳ぶバックのジャックナイフでダウン・ザ・ライン。相手はフォアをミスしポイント。
相手S第8ゲーム15‐30。浅いフォアスラ、バックでの深いボールを、相手へ交互に送った後、相手の浅くなったボールに入り込み、バックの逆クロスウィナー。
フォアスラパス
伊藤S第7ゲーム15‐15。相手はフォアスピンのクロスでアプローチ。伊藤はセンター付近やや左からフォアのスライスを逆クロスへ。いなすような弾道で、サービスボックスの角に落ちる見事なパッシングショットに。
第2セットではスコア差もあって伊藤は、
思い切りの良いフォアのスピンショットを、まるで「腕試し」と言わんばかりに試した。
フォアのスピン強打
相手S第4ゲーム15‐0。セカンドサーブの高い打点をスライスではなくフォアスピンで返球。次にフォアのムーンボールを送った後、高い打点のフォアでクロスに強打。反応の遅れた相手は返球ミス。
相手S第6ゲーム30‐0。デュースサイドのセカンドサーブに対して、フォアスピンでストレートへリターン。相手は反応が遅れる。すかさずバックでアプローチ。相手はバックのパッシングをミス。
バックの逆クロスと観察力
得意のバックのダウン・ザ・ライン、逆クロス気味のショットは、世界6位相手でも確実に、その効果を発揮した。
ワイドサーブは、ほぼ100%読み切って、先にリターンポジションを取っているなど、
随所に相手のフォームからコースを読み切る観察力は、超トップ相手でも変わらなかった。
アグレッシブなサーブが決まった時に関しては、相手にリターンで完全に崩されるほどは追い込まれなかった。
セカンドサービス、フォアの強打など、課題の部分はキッチリと意識して積極的にプレーしている様子がうかがえた。
課題はハッキリ
第2セット、伊藤はセカンドサーブでの8ポイントすべてを失った。
伊藤のサーブが把握され始めた第1セット第9ゲームの最後からゲームセットまで
セカンドサーブになった際、1ポイントも取れなかった。
9ポイント連続失点である。
ファーストサーブでなくなれば、リターンから完全に主導権を握られ、歯が立たなかった。
逆に相手のファーストサーブだと、第1セット第10ゲームから13ポイント連続で失点。
第2セットは10回のファースト時に1度もポイントできなかった。
第1セット同様、第2セットも伊藤のファーストサーブ確率が70%近くあれば、もう少しポイントは竸ったかもしれない。
またキーズのマッチ通算ファースト・イン確率は76.7%と高かった。もう少しスコア的に競ってプレッシャーをかけられれば、また違った展開になったかもしれない。
第1セット 主なスタッツ | ||
PW=ポイントウォン | ||
伊藤 | サービススタッツ | キーズ |
1 | エース | 0 |
1 | ダブルフォルト | 0 |
65.9% (27/41) | 1stサーブ | 82.1% (23/28) |
48.1% (13/27) | 1stサーブPW | 56.5%(13/23) |
42.9% (6/14) | 2ndサーブPW | 80% (4/5) |
伊藤 | トータルスタッツ | キーズ |
46.3% (19/41) | トータルサービスPW | 60.7% (17/28) |
39.3% (19/41) | トータルリターンPW | 53.7% (17/28) |
43.5% (30/69) | トータルPW | 56.5% (39/69) |
第2セット 主なスタッツ | ||
PW=ポイントウォン | ||
伊藤 | サービススタッツ | キーズ |
0 | エース | 1 |
1 | ダブルフォルト | 0 |
42.9% (6/14) | 1stサーブ | 66.7% (10/15) |
33.3% (2/6) | 1stサーブPW | 100% (10/10) |
0% (0/8) | 2ndサーブPW | 40% (2/5) |
伊藤 | トータルスタッツ | キーズ |
14.3% (19/41) | トータルサービスPW | 80% (12/15) |
20% (2/14) | トータルリターンPW | 85.7% (12/15) |
17.2% (5/29) | トータルPW | 82.8% (24/29) |
第2セットのトータルポイントは「5」対「24」。力の差は確かにあった。特にサービス&リターン力の差を見せつけられた。
ファーストサービスが70%ほど入る安定感を手に入れ、セカンドサーブの強化、セカンドサーブ時のポイントウォンの向上。
言葉で言えば簡単だが、シーズン中のサーブ改良は、なかなかもって難しい。もちろん予選から5試合を戦ってきた疲労もあった。
今シーズン2月のカタール・トータルエナジー・オープンで、2017年全仏覇者で、世界37位のエレナ・オスタペンコ(当時27歳=ラトビア)に完敗した時と、似ていた。
リターン力が超トップクラスの相手と対峙する時の課題は、誰よりも本人、陣営が分かっているだろう。
トップ50に4勝3敗
ただ、それ以外の部分でWTAツアー内、正真正銘のトップランカーと、互角に対峙できることを実証してみせた。
過去のデータを振り返っても、トップ50との勝敗は互角以上、4勝3敗と勝ち越している。
過去の世界ランク50位以内との対戦 | ||||
2025年8月11日 WTA1000 シンシナティ・オープン | ||||
世界6位 | M・キーズ | ⚫️ | ||
3回戦 | 第6シード | 2-6,3-6 | ||
2025年7月29日 WTA1000 ナショナルバンク・オープン | ||||
世界9位 | J・パオリーニ | ⚪️ | ||
2回戦 | 第7シード | 2-6,7-5,7-6(5) | ||
2024年10月29日 WTA250 香港オープン | ||||
世界29位 | K・ボルター | ⚫️ | ||
1回戦 | 第2シード | 4-6,4-6 | ||
2025年8月9日 WTA1000 シンシナティ・オープン | ||||
世界33位 | A・パブリュチェンコワ | ⚪️ | ||
2回戦 | 第27シード | 6-1,4-6,6-4 | ||
2025年2月10日 WTA1000 カタール・トータルエナジー・オープン | ||||
世界37位 | J・オスタペンコ | ⚫️ | ||
1回戦 | ー | 2-6,1-6 | ||
2025年2月15日 WTA1000 ドバイ・デュティーフリー選手権 | ||||
世界40位 | A・クルーガー | ⚪️ | ||
予選2回戦 | 予選第1シード | 7-5,6-2 | ||
2024年10月16日 WTA250 木下ジャパン・オープン | ||||
世界50位 | E・コッチャレット | ⚪️ | ||
2回戦 | 第8シード | 6-4,6-3 | ||
※世界ランクは対戦当時 |
WTA公式は、この日の一戦をこう評した。
「第6シードのキーズはパワープレーを抑制し、最後の13ゲーム中11ゲームを連取して、『非伝統的なスタイル』の伊藤あおいを破った。『トリッキーな』伊藤を軽々と操った」
キーズは第1セット「あおい沼」に足を一歩踏み入れかけた。
それでも確率重視のサーブと、パワーを抑え気味にしたストロークで確実に左右に散らし、伊藤を引き離した。
さすが世界6位という試合運びだった。
世界に知られたフォアスラ
試合後のオンコートでは、インタビュアーが「彼女はいっぱいフォアスラを打ってきたね」と伊藤イジりした。
キーズも膝を曲げスピンを打つポーズを、茶目っ気いっぱいの笑顔で返した。
2回戦でエヴァ・リス(23歳=ドイツ)に敗れかけた際に「気を失った」と発言し話題になったことに引っ掛けてか、第1セット終盤「流れを見失った」と話し、笑いを誘いもした。
「非伝統的」「トリッキー」と称され、伊藤と言えばフォアスラ、「スライスの悪魔」との代名詞がつき、キーズらにコメントが求められるほどのインパクトをWTAツアー内に残した。
この十分過ぎる「結果」「内容」こそを、称賛すべきだろう。
WTA1000 ナショナルバンク・オープン 7月27日~8月7日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選 | ⚪️ | A・サスノビッチ | 125 | 6-4,5-7,6-0 |
1回戦 | ⚪️ | K・ヴォリネッツ | 108 | 6-2,2-6,6-2 |
2回戦 | ⚪️ | J・パオリーニ | 9 | 2-6,7-5,7-6(5) |
3回戦 | ⚫️ | J・B・マネイロ | 51 | 6-4,5-7,3-6 |
WTA1000 シンシナティ・オープン 8月7日~8月18日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | A・クルニッチ | 354 | 4-6,6-4,6-2 |
予選2回戦 | ⚪️ | D・ガルフィ | 102 | 6-3,6-4 |
1回戦 | ⚪️ | E・ルーセ | 58 | 6-2,7-6(6) |
2回戦 | ⚪️ | A・パブリュチェンコワ | 33 | 6-1,4-6,6-4 |
3回戦 | ⚫️ | M・キーズ | 6 | 4-6,0-6 |
全米オープン予選第1シードも
さあ、次は、いよいよ全米オープンだ。
予選は8月18日から、本戦は24日から始まる。
WTA1000の2大会連続3回戦進出という快挙で、伊藤の最新の世界ランクは80位台前半に躍り出ると見られる。しかし、すでに全米オープンのメインドローの選出対象となるランクは7月14日付で締め切り済み。伊藤の場合は同日の103位が採用される。
7月15日の最初の発表で待機5番手だった伊藤だが、ここまで3人の欠場者が出て、現在待機2番手。このまま欠場者がでなければ予選からのスタートになる。
全米オープン女子出場辞退選手 | |||
R | 選手名 | 国名 | 日付 |
6位 | 鄭欽文 | 中国 | 7/21 |
10位 | D・コビニッチ | モンテネグロ | 8/8 |
95位 | P・バドサ | スペイン | 7/22 |
全米オープン女子繰り上がり選手 | |||
R | 選手名 | 国名 | 日付 |
100位 | L・ジャンジャン | フランス | 7/21 |
101位 | N・P・ディアス | スペイン | 7/22 |
102位 | J・タイヒマン | スイス | 8/8 |
全米オープン女子 待機順上位 | |||
R | 選手名 | 国名 | |
102位 | A・コルネ | フランス | |
103位 | 伊藤あおい | 日本 | |
104位 | J・フランチェスカ | イギリス |
予選からの場合は、男女128人がそれぞれ参加し、本戦出場は16人。つまり3試合に勝つ必要がある。ただ予選のシード順には最新ランクが採用される。
現状のライブランキングでは伊藤が第1シードになる可能性が高い。
突破への期待は高まる一方だ。
見事な4勝 自信胸に
いずれにしろ世界ランクのキャリアハイは大幅に更新される。この順位を維持すれば、来シーズンはグランドスラムでも確実に本戦ダイレクトインできる。
グランドスラムに次ぐグレードのWTA1000で2大会連続3回戦に進出した4勝。
初のトップ10との対決になった7月29日のナショナルバンク・オープンで、世界9位のジャスミン・パオリーニ(29歳=イタリア)からの「大金星」。キーズをも苦しめた第1セット終盤の粘り。
確固たる自信を手に、最高の形で、今シーズン最後のグランドスラムに向かう。
▶「WTA公式」Xより