伊藤あおい苦しんで全米本戦王手


またもフルセット勝利
世界ランク82位で予選第3シードの伊藤あおい(21歳)が8月21日、全米オープン予選2回戦に臨み、世界192位のギオマール・マリスタニー・ズレタ・デ・レアレス(26歳=スペイン)に勝利した。スコアは6-0,1-6,6-1。
またもフルセットで全米オープンの本戦まで残り1勝と、王手をかけた。
伊藤あおい 全グランドスラム成績 | ||||
2025年1月7日 全豪オープン | ||||
回戦 | 対戦相手 | R | スコア | |
予選1回戦 | ⚫️ | 石井さやか | 221 | 3-6,4-6 |
2025年5月20日 全仏オープン | ||||
予選1回戦 | ⚫️ | P・マルチンコ | 209 | 5-7,2-6 |
2025年6月30日 ウィンブルドン | ||||
1回戦 | ⚫️ | K・ラヒモワ | 80 | 7-5,3-6,2-6 |
2025年8月19日、21日 全米オープン | ||||
予選1回戦 | ⚪️ | A・フリードサム | 197 | 6-4,5-7,6-3 |
予選2回戦 | ⚪️ | G・マリスタニー | 192 | 6-0,1-6,6-1 |
苦しい場面 相手がまさかのミス
第1セットは相手のマリスタニーが伊藤のフォアスラ、両手バックのダウン・ザ・ラインに対応できず。伊藤の6-0。
第2セットは第1ゲーム伊藤がブレークを許す展開。相手の強烈なフォアが決まり出し1-6。
左右に大きく走らされた伊藤が右腰を気にし、苦しそうに大きな息を吹くシーンが増えた。
コートチェンジの際には、腰に巻いた保護ベルトを直す姿が目立った。
ファイナルセットは第1ゲームで幸先よくブレークしたが、第2ゲームでブレークバックを許す。伊藤に再び苦しそうな表情が浮かぶ。
だが、第3ゲームで相手がバックのミスを重ね、
最後は決定的なフォアボレーをまさかのロングアウト。
諦めていた伊藤は、微妙なアウトコールに喜び、大きな笑みを浮かべた。
再ブレークで3-1。
最終セット序盤、3ゲーム連続デュースとなる、どちらに転んでもおかしくない展開だったが、このゲームを機に、伊藤はイッキに元気を取り戻し、勝利に向かって突き進んだ。

さすがの多彩なショット
相手のミスではなく、もちろん、伊藤自身の頑張りも素晴らしかった。
試合を通じて、フォアスラのキレは凄まじかった。
随所で豊富なショットバリエーションを見せた。
どう見てもアプローチと思わせてフォアドロップ。見事なバックのショートアングルパス。
絶対に「テニスの教科書」には出てこないバックの超ヘッドダウンボレーは何度も決まった。
どセンター高めを突くフォアのスピンパスもあった。
アメリカの大観衆の心を掴んで離さない、「ドリームショット」の数々はさすがだった。
最後は6-1になったが、一見大味なスコアでは測りきれない、苦しさと一瞬の集中力があった。
11戦中8戦フルセット
伊藤は7月26日以降、26日間で
11試合を戦い、うち8試合がフルセット。
その8戦中7試合を勝っているのは神がかっている。
この試合前までの10試合の合計試合時間は19時間1分。
1試合平均1時間54分の戦いを強いられてきた。
雨で1日順延の幸運もあり、過酷な状況下で、何とか勝ちきったことは大きい。
WTA1000 ナショナルバンク・オープン 7月26日~7月31日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | 時間 | スコア | |
予選 | ⚪️ | A・サスノビッチ | 1:57 | 6-4,5-7,6-0 |
1回戦 | ⚪️ | K・ヴォリネッツ | 2:00 | 6-2,2-6,6-2 |
2回戦 | ⚪️ | J・パオリーニ | 2:22 | 2-6,7-5,7-6(5) |
3回戦 | ⚫️ | J・B・マネイロ | 2:14 | 6-4,5-7,3-6 |
WTA1000 シンシナティ・オープン 8月5日~8月11日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | 時間 | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | A・クルニッチ | 2:02 | 4-6,6-4,6-2 |
予選2回戦 | ⚪️ | D・ガルフィ | 1:15 | 6-3,6-4 |
1回戦 | ⚪️ | E・ルーセ | 1:46 | 6-2,7-6(6) |
2回戦 | ⚪️ | A・パブリュチェンコワ | 2:09 | 6-1,4-6,6-4 |
3回戦 | ⚫️ | M・キーズ | 1:02 | 4-6,0-6 |
全米オープン 8月19日~8月21日 | ||||
回戦 | 対戦相手 | 時間 | スコア | |
予選1回戦 | ⚪️ | A・フリードサム | 2:14 | 6-4,5-7,6-3 |
予選2回戦 | ⚪️ | G・マリスタニー | 1:34 | 6-0,1-6,6-1 |
連戦疲れ懸念
試合時間だけでなく、
伊藤のこの2カ月間の試合出場数を見ると、この日ですでに18試合。
過去最高試合数は2024年の20試合(9~10月、10~11月)。
だが、ITFツアー、国内とあっても近場の海外だった当時と、現在の過酷さは比でない。
本人が大の苦手と公言する海外ホテル暮らし。移動はウィンブルドン→ポルトガル→チェコ→モントリオール→シンシナティ→日本→ニューヨーク。
しかも、直近3大会は最もハイレベルで相手も厳しい、WTA1000とグランドスラム予選だから、なおさらだ。

全米予選を勝ち抜けば、そのまま来週からは本戦の第1週がスタートする。
次の予選3回戦と1回戦を戦った時点で、過去の2カ月間最高試合数20に並び、
2回戦以降は未知の領域に突入することになる。
もちろん、ナショナルバンクとシンシナティのWTA1000 2大会の快進撃は想定を上回るものだったろうから、やむを得ない。
フルセットにはなったが、この日は比較的短めの1時間34分で済んだ。
腰の痛みを考えても、これ以上の疲れを避けられたことだけは、救いだろう。
予選決勝は かなりの難敵
予選決勝、3回戦の相手は、予想通り、世界147位のジャニス・ティエン(23歳=インドネシア)に決まった。

2024年春、大学を卒業した時点ではランク外だったが、
16カ月間で、ITFタイトル13勝、ダブルスも6勝。
シングルス勝敗は97勝13敗と圧倒的な成績を残している。
特に今年は2025年4月のW35「富士薬品セイムス ウィメンズカップ」(大阪・靭)から再加速。2回戦で石井さやか(19歳)を撃破などしてのベスト4進出。
その後6月下旬まで27連勝するなど
出場9大会で優勝6度、準優勝1度、準決勝進出2度。
直近はITFで最高の10万ドル大会、
W100レキシントン、W100ランディスビルでも2週連続準優勝している。
▶ITF公式YouTubeより
伊藤が全仏オープンで敗れたペトラ・マルチンコと大激戦になったランディスビル決勝
先日発表された8月18日の世界ランクでシングルス、ダブルスともキャリアハイを更新したばかり。
147位のランキングは、全く参考にならないと言っていい、かなりの強敵だ。
片手バックの名手VSフォアスラ
注目のアジア人対決になる。
特にグランドスラム本戦初出場を目指すティエンは、インドネシアからグランドスラム予選に出場するのは17年ぶりとあって、母国の大きな期待を寄せられている。
最近も今村咲(23歳)とコンビを組むなど、日本でも少なからずご存知な方も多いだろう。
強烈なフォア、サーブ。両手バックもあるが、
片手バックのスライスを巧みに使う。
伊藤のフォアスラとのストレート対ストレート対決は見モノだ。
何とかあと1勝
そもそも伊藤の過密スケジュールは、急激なランキングアップにエントリー期限が追いついてないないことも大きな一因。
現在は確実に予選が免除される82位に付けている。
今より格段に楽になるダイレクトインとなるまで、あと少しの辛抱だ。
連戦疲れにも負けず、快進撃中の相手をストップして、全米オープンの本戦入りを決められるか。
十分過ぎるほど頑張っているが、何とか、あともう1試合、耐えてほしい。