伊藤あおいの凄さオンコート編

技術以外にも愛される稀有さ
世間の注目度がバク上がりした日本女子テニス期待の伊藤あおい。ひとたびコートに立てば、フォアスラ、ムーンボールだけではない、普通の選手とはちょっと違った魅力がある。
その愛される一面は、画面越しでしか、そのプレーを見たことがないファンにはなかなか分からない。

ランキング形式の第2弾は、テクニック以外にコート上で見せる「素」の部分をピックアップする。

ベスト10の第2弾はオンコート編
▶「WTA公式」インスタグラムより
10位 鈍感力

テニスはあくまでテニスの姿勢
細かいこと、自分にはどうしようもないことは気にしない。
「繊細」なプレーをする一方で
「鈍感」に見せたメンタルの強さが大きな武器だ。
コートイン前の特別なアップは一切なしというのは有名な話。
通常、ニューボールの際は新品のラケット、ガットに交換するプレーヤーも多いが、伊藤は試合中にラケットをほぼ変えない。
ホントかウソか「筋トレするぐらいなら引退を選ぶ」という。プロ野球の新庄剛志が現役時代、下半身強化を勧められると「ジーパンが似合わなくなるので鍛えません」と言った話に通じるところがある。
テニスはあくまでテニス、という伊藤のスタンスを表した言葉だ。

コートに入る直前まで、タブレットでお絵描きに没頭していることも。
イヤホンをしながら音楽を聞いて自然体でコートインする。
試合中には脳内にVTuberのhololive(ホロライブ)の曲が流れていることすらあるという。
国内オムニコートで、転倒して頭を打って棄権した際も、コートへの恨み節は一切なかった。
「風には弱い」と公言しつつ、相手よりは全然、上のプレーをして見せる。
9位 愛らしい仕草

小さなガッツポーズと忘れぬ笑顔
ファンにして見れば、もっと上位かもしれないが、テニスにはあまり関係ないので9位にしておく。
自分でも驚くようなナイスショットが決まれば、満面の笑み。
相手に見られないように後ろを向いて、小さな拳を握り、ピョンピョンと小躍りする。

素晴らしい勝利で観衆に拍手されると、スター選手のように頭の上で大きく手を合わせるポーズを見せるのではなく、まるで自分も観客の1人であるかのように一緒になって音のなる拍手をしていた。
コート上でよくコケるが、その際も周りを心配させないようにか、デヘヘと言わんばかりに照れ笑い。
最近はなくなったスマッシュ空振りというシーンでも照れ笑いと、どこまでも「愛されキャラ」だ。
キュートなスマイルは、海外のファンも虜にし始めたと見られ、シンシナティ・オープンでは男性ファンが立ち上がって「ITO!」の大合唱。これには試合終盤、緊迫しているはずの伊藤も笑顔を見せていた。
8位 メリハリ効いた闘志

意外に簡単には諦めない粘り
全面に闘志を出すことはないが、劣勢に立っても、常に粘り強く勝機、逆転のチャンスを見出そうとしている。
モチベーションは「賞金」とあっけらかんと笑いつつ、
「勝ち気」に走りすぎない、そのバランス加減が絶妙にいい。

曲がらぬ膝とは裏腹に、取れるボールは追いかける「頑張り屋」。
一方で、無理なボールは全く追いかけない。
ウィナーを取られると自分の配球が悪かったとばかり、ラケットを空中で縦にクルクル回して次のポイントに集中する。
国内大会第1シードで初戦敗退すると、敗れたのにもかかわらず1人1人丁寧にサインをして「シードを守れずごめんなさい」と謝ったことも。
内心は「全力プレー」なのが、よく伝わってくるエピソードだ。
7位 審判に不満なし

審判は「敵」にしない態度
際どいボールをアウトと判定されると、少し残念そうな顔をすることはあっても、決して審判に不平を言ったり、詰め寄るようなことはない。
さっと次のプレーに移行する。
ジャストアウトの際は、「ちょっとズレてたか」とばかり、ポイント間に、そのショットの素振りを始めるのが常。悪いのは、あくまで自分のタイミングのせいにする。
逆に自分のボールがラインギリギリに入っていたことを確認すると、
ホッとしたように満面の笑みを浮かべる。

国内でのセルフジャッジのクセが抜けないのか、相手のボールがアウトと見るや、自然と腕が「アウト」のポーズになっている。
決して審判へのアピールというようなものではなく、無意識に手が上がるのが、なんともかわいらしい。
海外で転倒した試合、審判が心配して英語を状態を聞くと「ダイジョウブです!」と日本語で返していたのは笑った。
6位 緊張しない

勝負度胸 勝負勘はピカイチ
相手のパワーを利用するテニスのせいか、
緊張感でプレーが硬くなるといったシーンはほぼない。
世界9位ジャスミン・パオリーニ(29歳=イタリア)から大金星を挙げた時も、マッチポイントでリターンからジャックナイフを繰り出す度胸を見せた。

かといって、ウィンブルドンのキレイな芝の前で、うれしそうに記念写真。大舞台にキッチリと喜んでいる側面もある。
ベンチでも平常心で小さな足踏みを踏んだり、目をつぶったりといった姿は見られない。ゆっくりとクーラーボックスから飲み物を取り出し飲み、汗を拭うのみ。
「自分の強さはメンタル」と言うだけあってやはり、強心臓ぶりはピカイチだ。
5位 試合テンポの速さ

決して相手を待たせません
テニスではポイントが終了してから次のポイントまで25秒。
伊藤のサービス時のテンポの速さは、半端ない。
10秒ほど余らせてモーションに入ってしまうこともしばしばだ。
大事なポイントでは間を取りたいものだろうが、伊藤の場合はそんな時こそ、逆に速い。
長い長いロングゲーム。ロングラリーの後、このポイントでほぼ試合が決まるという場面で、肩で息を切らせながらサーブを打った時には本当に驚いた。

相手に考えさせないためか、自分が自然の流れの中でプレーするクセが体内時計に刻まれているのか、分からないが、
とにかく次のポイントへの「せっかち」な間は必見モノだ。
かといって相手レシーバーが準備が間に合わず手を上げて待つことを促すと、ニッコリほほ笑んで相手のペースに合わせる。
エンドチェンジの90秒の使い方も同様。主審が「タイム!」とコールする前にベンチを立つ。
サーバーの時、レシーバーの時、どちらでも確実に、伊藤の方が、かなり先にコートで待つ状況になる。
4位 声は自虐のみ

「カモン」はきっと生涯言いません
「カモン!」「レッツゴー!」など、テニスのプロでは定番の声を挙げることは絶対ない。
呼吸法にもつながる「ウ~ン」「ウォ~ン」といった類の唸り声もゼロだ。
逆に出るのは「何で!」「うそ~」「キャ~」「イヤ~」と言った、ツアープロではあまり聞かれない言葉。
そのほとんどが、チャンスボールをミスった際、まさかのダブルフォルトの際の
自然に出た悲鳴に近い自虐系ワードだ。

ガッツポーズも相手には分からないぐらいに控えめ。胸の前で小さく拳を握る程度だ。
そこには必ず笑みがついてくる。
「やっぱり応援してくれるとうれしいです、内心では『ドヤ顔』していたりするので」とは本人の言葉。
「『カモン』とか言わないタイプですが、内心は荒ぶっているので、拍手とかしてくれると、自己肯定感が出ます」。
この謙虚な姿勢がある限り、相手や外的要因に対する不満の声が漏れることはない。
当たり前だが、テニスによくあるラケットやボールに当たるシーンも皆無だ。

3位 ボーラーへの配慮

どれだけ周りを見ているのかが分かる
ボールボーイ、ボールガールへの気配りの素晴らしさは、WTAツアーでも屈指だろう。
ボールボーイが後ろに落ちたボールに気づいていなかったら、笑顔で待ってあげる。サーブチェンジの際にボールを回すのを忘れていたら、自ら教えてあげたり、と。
必死にプレー中のプロとは思えぬ、自然体の振る舞いに、感心させられることもしばしばだ。

ある国内公式戦。自らがアドバンテージコートのTゾーンに打ったサービスは若干のフォルト。だが、バックフェンスに跳ねて、デュースサイド方向にまで転がっていってしまった。これを見た伊藤は「すいません」。練習中ならまだしも、大事な試合中に、である。
炎天下、日傘をかけてくれるボールボーイには「ありがとうございます」とペコリと頭を下げる。1度目はいいとして、2度目、3度目でもこの感謝の姿勢は続く。海外でも同じだ。
相手のサーブのフォルトや、レットのボールを、ボールボーイに、うまく返せないと、これまた謝る。
円滑な試合運営の影の立役者、ボーラーからの評判も、さぞや良いことだろう。
2位 相手への敬意

お辞儀は日本の美徳です
会心の勝利をあげても、喜びもそこそこに、相手との試合後の握手に必ずすぐ向かう。
ショッキングな負けでも、その姿は変わらない。
「試合をしてくれてありがとうございます」とばかりに、
ペコリ、ペコリと頭を何度も下げる姿は、海外でも礼儀正しいと話題になった。

コートチェンジの際も、常に相手の移動しやすさを優先。ほぼ「お先にどうぞ」のパターン。
両選手が主審にお礼の握手に向かう際も、相手の動きに合わせる。
どう見ても相手に有利なコードボールになっても、手を上げて「ゴメンナサイ」ポーズをすることも、しばしば。
対戦相手も、これだけ謙虚に来られたら、叩きのめしてやろう、という気持ちも少しは萎えてしまうかもしれない。
自分のランキングがドンドン上昇しても、自分のダブルスのパートナーを立てる姿は変わらないまま。「勉強させてもらってます」とばかりに、こちらも深々とお辞儀する。
1位 ファンサービス

誰もがファンになる「神対応」
一般的にファンが試合後のサインを求めるのは勝者のみ。敗者は時に断ってもいい、というのが「暗黙のルール」だが、伊藤の場合は、良い意味で、その「常識」を裏切る。
恐る恐る近づくファンに自ら歩み寄り
「私のサインなんて誰がいるの?」と言わんばかりに、低姿勢の笑顔でペンを走らせる。

自分がスマホを握ってツーショット写真を撮ってあげるなんてこともしばしば。
今後、サインを求めるファンが殺到したら、かわいそうなので、あくまで時間が許す限り、応じたいと思っているプレーヤーということで、ご理解ください。
得意の描き下ろしイラストが、用具提供のダンロップのプロモカードになったことも。
これも画伯の才能がないとできない、他のプレーヤーには簡単にはマネできない「ファンサービス」だ。
謙虚さ+確固たる自分
礼儀正しく謙虚。だが自分自身の意思、考え方を、しっかり持っている。
そうでなければ、全く持って一般的とは言えない、あの独特のテニスや、テクニックが生まれるはずはない。
「膝を曲げろ」「下半身を使え」「闘志を前面に出せ」。
きっと数々の指導を受けてきたのだろうが、意に介せず、今のスタイルを確立してきた。
その自分の信念に従う姿勢は、プレー以外の行動にもたくさん表れている。
ラケットやボール、審判や環境、誰のせいにする訳でもなく、自然体で、きちんと前だけを見ている今の姿は、やはり凄い。
