小田凱人ゴールデンスラムへ圧勝発進


ストレート勝利
小田凱人がゴールデンスラム達成へ向けて順調なスタートを切った。
全米オープンの男子車いすテニスのシングルスが9月3日、開幕。第1シードの世界1位、小田凱人(19歳)が1回戦に登場し、世界7位のケイシー・ラツラフ(26歳=アメリカ)を6-1,6-0で圧倒した。試合時間1時間6分。
ラツラフとの対戦成績は、これで無傷10連勝。しかもすべてストレート勝利で、1セットも落としていない。
バックの精度アップ
今や絶対王者に君臨する若武者は、全く危なげなかった。
第1セットの第2ゲームで相手キープを許した以外は全ゲーム奪取。
1-1から11ゲーム連取だった。
ウィナー19本。フォアで7本、バックで6本。
対してアンフォーストエラーは13本に抑えた。
特にバックの精度が凄まじかった。
ゲーム開始からいきなり2本連続バックハンドのダウン・ザ・ラインウィナーがコーナーに決まったのが、象徴的だった。
バックのアンフォーストエラーはわずか3本。
ストレートのポール回し、強烈なスピンのクロスと、いずれも芸術的なバックのパッシングも、見事に決まった。
ゴールデンスラムへ
全仏オープン3連覇を始め、ウィンブルドン2度、全豪オープン1度、優勝。
若くして早々とグランドスラムタイトル6度。
さらにパリ・パラリンピック金メダルを誇る、小田をもってしても、まだ手にしたことのない栄冠が、この全米オープンだ。
小田の全グランドスラム成績 | ||||
全豪 | 全仏 | ウィン | 全米 | |
2025 | 準V | 優勝 | 優勝 | ? |
2024 | 優勝 | 優勝 | SF | ー |
2023 | 準V | 優勝 | 優勝 | 1R |
2022 | ー | SF | QF | QF |
通算 | 10勝 2敗 | 15勝 1敗 | 9勝 2敗 | 2勝 2敗 |
※2024年パリ・パラリンピック シングルス金メダル、2024年全米はパラと同年のため不開催 |
今回、全米オープンで優勝すれば、19歳4カ月でのキャリア(生涯)ゴールデンスラム達成、
グランドスラム4大会制覇+パラリンピック制覇となる。
「10代最後の今年、取ることに意味がある。熱い試合をして、テニス界に自分の名前を刻みたい」
自らラストチャンスと、シーズン当初からプレッシャーを懸けた10代ゴールデンスラム達成へ、まずは1つめのハードルをクリアした。
過去3人の希少価値
ゴールデンスラムを達成すれば、車いすテニス界では、男子の国枝慎吾、女子のディーデ・デ・グロート(オランダ)、そして「クアード」クラスを含めても男子のディラン・オルコット(オーストラリア)の
過去3選手しかいない偉業となる。
19歳4カ月で成し遂げれば、車いすテニス界最年少記録、10代初の快挙。
車いすテニス キャリアゴールデンスラム達成者 | |||
競技 | 選手名 | 達成年 | 年齢 |
女子 | ディーデ・デ・グロート | 2021年 | 24歳8カ月 |
男子※ | ディラン・オルコット | 2019年 | 28歳9カ月 |
男子 | 国枝 慎吾 | 2022年 | 38歳4カ月 |
※=クアード、グロートは年間ゴールデンスラム、オルコットは2021年には年間ゴールデンスラムも達成 |
長い歴史を誇る、テニス(健常者)でも達成者は、男女5選手のみ。ここでは女子のシュテフィ・グラフの19歳3カ月10日にわずか20日間ほど届かないが、男子ではダントツの最年少記録となる。
男女テニス キャリアゴールデンスラム達成者 | |||
競技 | 選手名 | 達成年 | 年齢 |
女子 | シュテフィ・グラフ | 1988年 | 19歳3カ月 |
男子 | ラファエル・ナダル | 2010年 | 24歳3カ月 |
男子 | アンドレ・アガシ | 1999年 | 29歳1カ月 |
女子 | セリーナ・ウィリアムズ | 2012年 | 30歳10カ月 |
男子 | ノバク・ジョコビッチ | 2024年 | 37歳2カ月 |
競技始めまだ9年
とはいえ、ここで考えてほしい。
グラフがテニスを始めたのは4歳から。競技スタートから15年かけての達成。幼少時代から「神童」と騒がれ、順調にキャリアを積み重ねた。
一方で小田は9歳の時に左足に骨肉腫を発症。左脚の股関節と大腿骨の一部を切除して人工関節に置き換える手術を受けた。
リハビリを重ね、車椅子テニスを始めたのは10歳から。
競技スタートから、まだ9年しか経っていない。
日常生活への対応をしながら、血の滲むような努力で、ラケットさばき、チェアテクニックを身につけた。
何よりプロサッカー選手を目指していたまだ小学生の少年が、気持ちを切り替え、新たな目標を設定し、そこに向かって突き進むことが、果たして簡単にできるだろうか。
「国枝慎吾」という存在を見つけたことも大きかったろうが、
小田の前向きな姿勢に、改めて感服する数字である。
同じような境遇の子どもたちに、夢を与えるためにも、だからこそ、小田は10代で達成することに「意味がある」と公言するのでは、なかろうか。
レベルの違い見せつける
「一番は『こいつやべーな!』と驚かれたいです」という小田。
まずは初戦で十分に周囲を驚かすインパクトを与えた。
だが「車いすテニス界に新たな時代を切り開く」と公言する小田のことだ。
こんなものでは、まだ足りないと言うだろう。
隣のスタジアムから大歓声が届くたび、『こっちも見てくれ!』と言わんばかりに
ナイスショットを決めていくシーンが目立った。

次戦、準々決勝の相手は世界15位のセルゲイ・リソフ(21歳=イスラエル)に決まった。
対戦成績は小田の3勝0敗だ。
決勝で第2シード、アルフィー・ヒューエット(27歳=イギリス)を再び倒すまでは負けられない。
そのヒューエットも1回戦を6-0,6-2と小田と同じような圧勝劇。
ダブルスでもヒューエット組、小田組とも4強に進んでおり、決勝で対戦する可能性もある。
何よりウィンブルドン決勝に続く、元王者とのシングルスでの「名勝負再現」へ。まずは、あと2勝が必要だ。