内島7本MP逃れ全米1勝


大逆転勝利
世界ランク94位の内島萌夏(24歳)が8月24日、全米オープン1回戦に臨み、世界ランク39位のオルガ・ダニロヴィッチ(24歳=セルビア)を7-6(2),4-6,7-6(9)という劇的なスコアで破った。
グランドスラムでの勝利は2025年全豪オープン以来。全米オープンでは2年連続の2回戦進出となった。
苦しかった自身マッチ10連敗からの脱出は、
マッチポイントを相手に7度も握られながら、すべてセーブするという、ミラクルな大逆転勝利だった。
5月13日のWTA125クラランス・トロフィー1回戦以来、実に103日ぶりという白星となった。
3-5 相手サーブで40-0
第1セットをタイブレークで取るも、第2セットは4-6、自らのサービスゲームを最後は、この試合10本目のダブルフォルトで落とすという展開。
決して内島に流れがある雰囲気ではなかった。
ファイナルセットも第8ゲームで先にブレークを許し3-5。
そして相手サービスゲームでナイスサーブを続けられ、あっという間の40-0。
相手のサービング・フォア・ザ・マッチでトリプルマッチポイントになった。
内島は「また勝てないのか」とネガティブな感情に押しつぶされそうになった。
当然だろう。
その一方で「まだ勝てるチャンスはある」と必死に気持ちを奮い立たせた。
そして、ここからが「奇跡」の始まりだった。
深さとボールの質

- バックで深いリターン→相手フォアミス→40-15
- フォアで中央へ強打のリターン→相手フォアミス→40‐30
- フォアスラリターン→13球目相手フォアミス→40-40
圧巻は3度目の相手マッチポイント40‐30から。内島はすべてセンター付近に強打。
コース的には安全策を取りながらも、両者緊張する場面で、キッチリと振り切ったストロークを放ち、ロングラリーを制した。
打ち切ったフォアのスピンの威力、ちょっとしたボールの質の差に、相手がわずかに押された。
明暗を分けたのは、「ねじ込む執念」とでも言えば良いのか。
デュースに追いついた。
3本の相手マッチポイントが消えた、この瞬間から内島はリスクを背負っての攻めに転じる。
- 8球目、フォアに来た高めを叩きストレートウィナー→AD内島
- 4球目深いフォアの逆クロス→9球目を相手フォアミス→ゲーム内島
勝利へあと一歩と迫り、積極性を失った相手とは対象的に、
フォアの深いショットで相手を追い込み5ポイント連続奪取。
土壇場でブレークに成功する。
5-6 自分サーブで0-40
その後、両者1ゲームずつキープして迎えた第12ゲーム、内島のサービスゲーム。
ダブルフォルト、決定的なフォアボレーミス。フォアの強打のミスで、
またも0‐40で相手のトリプルマッチポイント。
自分のサービスゲームとはいえ、再び、あとのない状況になった。
今度こそダニロヴィッチは勝利を確信しただろう。
それでも内島は諦めていなかった。

- セカンドサーブを強気に打ち込み6球目相手フォアミス→15-40
- ワイドへのナイスサーブを相手返球できず→30-40
- 深いボディーサーブ→5球目内島の深いフォア→相手フォアミス→40-40
またもサーブとボールの深さで内島が3本をしのいだ。
相手は信じられないといった顔で叫び声をあげた。
- ワイドのナイスサーブ→AD内島
- 3球目内島の深いバック→5球目フォア逆クロスウィナー→ゲーム内島
相手が「なぜ入るのだ」と頭を抱えるような、
神がかった深い深いボールで、またも5連続ポイント。
10ポイントタイブレークに持ち込んだ。
タイブレでも波乱
10ポイントタイブレークでも、もう一波乱が待ち受けていた。
6-1、そして7-3リードまで内島がリードするが、ここからダニロヴィッチが反撃。
4連続ポイントで7-7とイーブンに戻される。
内島がサービスキープで8-7とするが、相手もサーブ2本を取り8-9。
内島にとって、7度目となる相手のマッチポイントが訪れた。
緊張の内島サーブはセカンドに。
ここまで13本のダブルフォルトを犯しているだけに、甘くなる。
ダニロヴィッチはベースライン内側に入り、リターンのフォアを強打する。
内島はフォアスラで何とか、しのいだ。
いや、これがしのいだだけでなく、深い!
次の相手フォアがわずかにベースラインよりロング。9-9でもう1度内島サーブ。
- 内島が3球目フォアの逆クロス、相手はラケットに触るだけ→10-9
そして内島が迎えた最初のマッチポイント
- 相手ダブルフォルト→11-9
まさかの結末に信じられないといった表情の内島が相手と握手した。
その後はコートにしゃがみ込み、涙が溢れ出た。
祝福の大歓声の中、コートサイドで見守った杉山愛日本代表監督らに抱きしめられると、もう涙が止まらなかった。
泥沼の10連敗
4月のビリー・ジーン・キング・カップで日本代表として2連勝の活躍。
その後、5月のムチュア・マドリード・オープンでは
上位勢を次々破り、自身初のWTA1000の8強に進出した。
さらなる飛躍が当然のように待っているかに見えたが、ここから「地獄」が待っていた。
WTA1000イタリアン・オープンは初戦敗退。続くWTA125クラランス・トロフィーは1回戦こそ勝利したが、2回戦負け。ここから全仏、イーストボーン、ウィンブルドン、ノルデア、ハンブルグ、プラハ、ナショナルバンク、シンシナティと9連敗。
全米前、最後の調整にクリーブランドのWTA250大会に急きょ参戦したが、
ここでも敗れ、なんとマッチ10連敗。
47位だったランキングは94位にまで落ちた。
完全に自信を失っていた。
「クレー終わって、すごい苦しいシーズンを送って、なかなか勝つこともできず、連敗がこんなに続いたのも初めてだったので。正直、全然自信もなくて今日入った」。
内島は試合後のインタビューで、包み隠さず、その心境を打ち明けた。
信じれくれたチームに感謝
励ましてくれるチームや、大観衆に、自分らしいプレーを見せる気持ちだけが、原動力になった。
「こういう風にチーム、観客のたくさんの方々の前で、こういう試合を見せられてよかった」。
3時間9分、トータルポイント「136」対「133」。
苦しみ抜いた分、ほんの少しだけ「神様」も後押ししてくれたのか。
相手コートのベースラインぎりぎりに何度も突き刺さった、深い深いボール。
そして攻めていい場面はフォアで攻めきる、メリハリが見事だった。
きっと何度も何度も何度も、反復練習を繰り返しただろう、
内島の「魂」が乗り移ったかのようなボールだった。