柚木 胸張れる準V ランク急上昇


ツアー初ファイナリスト
柚木が惜しくもATPツアー初優勝を逃した。
9月30日、ATP500木下グループジャパンオープンテニス(東京・有明)のダブルス決勝が行われた。
日本の柚木武(27歳)は、ダブルス元世界1位ロハン・ボパンナ(45歳=インド)とのペアで、第2シードに挑んだ。
世界ダブルスランク20位のヒューゴ・ニス(34歳=モナコ)と同18位のエドゥアール・ロジェバセラン(41歳=フランス)組と対戦は、7-5,7-5のスコアで、ニス&ロジェバセラン組が勝利した。
1時間32分の戦いにあと一歩及ばず敗れたが、
6日前、ATPツアー初勝利を挙げたばかりの日本期待のビッグサーバーにとっては、
大いなる自信を得るツアー初の準優勝だった。

0ー40から持ち味を存分に
決勝でも柚木は自信に満ちた積極的なプレーを見せた。
第1セット第5ゲーム、柚木のサービスゲーム。
2連続ダブルフォルトもあって0-40のピンチを迎えた。
ここでセンターへ225キロのエース。
続いては224キロのワイドへのファーストから相手のミスを引き出す。
さらにはこの日、最速229キロのファーストから7球目をボパンナがナイスポーチ。
柚木の持ち味、強みを存分に活かした攻撃でデュースに追いついた。
ノーアドのディサイディングポイントではアドコートのセンターへ完璧なエース。
「決勝で239キロを出す」と宣言していたファーストサーブ。
残念ながら、計時はされなかったが、宣言に近いスピードを思わす渾身の一撃だった。

今大会 全24ゲームキープ
疲れもあってか、ボパンナの動き、体のキレは今一つだった。
それをカバーするかのように柚木は何度も思い切ったリターンでチャンスを作った。
ボパンナに遠慮することなくセンターのボールも積極的にポーチに出た。
「振り切る」と決めた信念を感じさせる積極的な180キロ台のセカンドサーブも光った。
サービスは全試合、全セット、柚木からのスタート。
1回戦から決勝までの4試合、
終わってみれば柚木は24ゲームすべてでサービスキープ。
つい先日、9月13日のデビスカップのドイツ戦では自身のサービスゲーム5ゲーム中2ゲームしかキープできなかったのが、まるでウソのようだ。
ボバンナに、どんな状況になっても自信を持って自分の最大の武器で攻めればいいんだ、と教えられているかのような躍進ぶりだった。
優勝者 ボパンナからも称賛
柚木は準優勝スピーチでは、ボパンナとのコンビを実現してくれた日本代表の添田豪監督、ワイルドカードを与えてくれた大会関係者、そしてボパンナには英語で丁寧に感謝の言葉を述べた。
多くのサポートを受けて、大会前112位だった柚木のランキングは、
グランドスラム出場圏内の86位前後にまで一気に急上昇する。
今後、世界で活躍する可能性は大きく広がった。
「チャンスを与えてもらって、しっかり決勝戦まで来れたことは自信になった」。
そして「来年はこの大会にランキングで入れるように頑張りたい」と決意を述べた。
優勝したニスからも「コンビを組んで2試合とは信じられない戦いをしていた」と称賛された。
そして何よりボパンナからは「タケル素晴らしい1週間をありがとう。これから先、素晴らしい戦いを見せてくれることを祈っている」と今後の飛躍を期待された。
柚木武(ゆずき・たける) | |
生年月日 | 1998年9月22日栃木県真岡市生まれ |
テニス歴 | 6歳からテニスを始め、文星芸大付高から法大 |
主な学生戦績 | 2020年インカレダブルス優勝(岡垣光祐とペア) |
プロ転向 | 大学主要大会で優勝したらの宣言通り2021年プロに |
全日本制覇 | 2024年全日本ダブルス初優勝(渡邉聖太とペア) |
主なタイトル | 2024年4月のチリ・コンセプシオン大会、11月の松山など3度チャレンジャー制覇 |
グランドスラム | 2025年全豪オープンでグランドスラム初出場(渡邉聖太とペア) |
デビスカップ | 2025年初招集、イギリス、ドイツ戦でダブルス起用 |
身長 利き手 | 196センチ 左利き |
ロハン・ボパンナ(Rohan Bopanna) | |
生年月日 | 1980年3月4日インドカルナータカ州生まれ |
テニス歴 | 11歳からコーヒー農園のコートでテニスを始める |
遅咲き | 2003年チャレンジャー、2008年ATPで初タイトル |
ブパシとペア | 2010年からマヘシュ・ブパシと組んで躍進。緊張関係にあったパキスタン選手とのコンビは「インド-パキスタン・エクスプレス」と話題に |
グランドスラム | 2024年全豪オープンでグランドスラム初優勝。パートナーはマシュー・エブデン(オーストラリア)。実にグランドスラム出場61度目、19人目のパートナーで達成 |
デビスカップ | 2002年初招集から23勝27敗 |
最年長1位 | 同年、43歳で史上最年長の初世界ランキング1位 |
身長 利き手 | 193センチ 右利き |
537勝のボパンナ先生
柚木にとっては自身初のATPタイトルを逃したが、
ボパンナは、27度目のATPタイトル、45歳になって初のタイトルを逃した。
ATP公式では20歳でダブルス世界1位に輝き、47歳で最後の優勝を果たしたジョン・マッケンローを引き合いに出して、
決勝にまで進出したボパンナの快挙を「マッケンローと同等だ」と称えた。
マッケンローのダブルス優勝回数77回には到底及ばないが、
通算勝利数はマッケンロー544勝に対してボパンナは537勝。
いかにボパンナが地道に長い道のりを歩んできたかが、分かる数字だ。
師がくれたもう1つの勇気
ちなみにボパンナが初めてATPタイトル手にしたのは2008年8月のロサンゼルス。
28歳5カ月の時のことだった。
今大会1回戦の直前、9月22日が誕生日だった
柚木はこの日、27歳と8日。
もし来年、柚木がジャパンオープンで優勝すれば、ボパンナと同じ年齢で初タイトルを獲得することになる。
柚木だって、これからボパンナのようになれる可能性を秘めているのだ。
「生ける伝説」はコート上だけでなく、キャリアの歩みの面でも
柚木に大きな勇気と力を与えてくれていた。
なんて不思議な運命のめぐり合わせだ。
白髪交じりの魅力的な「先生」から出されたツアー優勝という「宿題」。
早いうちに何としてもやり遂げてもらおう。