錦織 最後のグランドスラムは坂本に敗れる

怜に負けて良かった
妙に感傷に浸り過ぎることもない。
最後のグランドスラム、最後の全米オープン。
2014年アジア人史上初の準優勝という快挙を成し遂げた、思い出深い場所に立っても、
世界477位の錦織圭(36歳)は、錦織圭らしいままだった。
アメリカ選手以外では異例のワイルドカードを得て出場。
8月29日の予選決勝では世界157位の坂本怜(20歳)に4-6,6-7(3)のスコアで敗れた。
試合後の17番スタジアム。さらに異例とも言えるセレモニーが試合後に催された。
インタビューの最後、大勢詰めかけた日本人に、日本語でコメントを求められると、穏やかな表情でこう言った。
「いい試合ができたと思います」
「怜に負けたということは、他の選手に負けるよりかは良かったと思います」
観衆からは拍手と笑い声が起きた。
涙はない。
錦織はどこか嬉しそうな顔を浮かべた。
▶「US OPEN」公式YouTubeより
緊張の立ち上がり
相手は次代の日本のエース候補筆頭、IMGアカデミーの後輩。引退を控え、どこか緩んだ雰囲気なってもおかしくなかったが、試合前からバリバリの緊張感が漂った。
序盤は両者ともプレーでも硬さが見られた。
錦織が先にブレークしたが、坂本が4ゲーム連取して6-4で錦織がファーストセットを落とす。
股関節が痛むのか、少しバランスを崩すとボールを追うのも辛そうな姿が時折見られた。
だが、まったく腐るような仕草は見せず、真剣味あふれるファイトをし続けた。
通常は返ってこないような坂本の鋭いサーブにも完璧なタイミングのリターンで対応。
何度も坂本を驚かせた。
5ゲーム連続デュースでサービスキープ
ビッグサーバー相手でも、粘りに粘ってワンチャンスを待つ。
最後まで錦織らしい戦いを見せたのが、第2セットだった。
ゲームカウント1-1から錦織のサービスゲームは5ゲーム連続デュース。
ブレークポイントは4度あったが、そのすべてを死守した。

坂本にサーブで圧倒されながら
第2セットに入ると、坂本はサービスの威力が上がる。
このセット13本、マッチ通算19本のエース、最速223キロのサーブで押しまくる。
錦織がサービスゲームを苦しんでキープする間、
坂本は自らのサービス5ゲームでわずか3ポイントしか落とさなかった。
1つのミスが即敗戦につながる、そんな状況下でも錦織は、精度の高い両手バック、華麗なドロップ、鮮やかなトップスピンロブ、強烈なフォアをぶちかました。
坂本は「少しでも下がったらフォアで叩くぞと言われているようだった」と、
コート上で「怖さ」すら感じていたという。
7ポイント差あってもタイブレ
タイブレークでは坂本のサーブ力の前に押し切られた。だが、ポイント差は開いても、できうる限りのプレッシャーを相手にかけ続けた。
第2セットのトータルポイントは42‐53。
タイブレークに入るまでは39‐46。
7ポイントもの大差を付けられながら、錦織は食らいついた。
トップに勝つということとは、どういうことか、まるで坂本に教えようとしているかのようだった。
全米予選に始まり全米予選に終わる
錦織の初のグランドスラム予選出場は、今から19年前の2007年全米。そして最後も全米。
予選成績は7勝3敗。勝率.700。
本戦成績は104勝46敗。
勝率.693という、実に素晴らしい成績で幕を閉じることになった。
これは全ツアー勝敗の452勝232敗、勝率.661を遥かに上回る数字だ。
| 全豪 | 全仏 | 全英 | 全米 | |
| 2026 | 棄権 | ー | ー | Q3 |
| 2025 | 2R | ー | ー | ー |
| 2024 | ー | 2R | 1R | ー |
| 2023 | ー | ー | ー | ー |
| 2022 | ー | ー | ー | ー |
| 2021 | 1R | 4R | 2R | 3R |
| 2020 | ー | 2R | 中止 | ー |
| 2019 | QF | QF | QF | 3R |
| 2018 | ー | 4R | QF | SF |
| 2017 | 4R | QF | 3R | ー |
| 2016 | QF | 4R | 4R | SF |
| 2015 | QF | QF | 2R | 1R |
| 2014 | 4R | 1R | 4R | F |
| 2013 | 4R | 4R | 3R | 1R |
| 2012 | QF | ー | 3R | 3R |
| 2011 | 3R | 2R | 1R | 1R |
| 2010 | ー | 2R | 1R | 3R |
| 2009 | 1R | ー | ー | ー |
| 2008 | ー | Q2 | 1R | 4R |
| 2007 | ー | ー | ー | Q2 |
| 通算 | 28勝 11敗 | 27勝 12敗 | 22勝 12敗 | 27勝 11敗 |
グランドスラム全大会でベスト8以上。
何より「日本選手でも世界で勝てる」という現実味を、
後進に与えた貢献度は、とてつもなく大きい。
ジャパン・オープンで最後の姿
9月30日からの最後のジャパン・オープンで有終の美を飾る。
錦織のセレモニーを直立不動で見守った坂本にとっては、この上のない経験値となっただろう。
最後のグランドスラムで、次期エースとの運命的な戦い。
大事な後進への「伝達式」はもう済んだ。
2012年、2014年と過去2度優勝した、
もう1つの思い出深い、有明での正真正銘、ラスト舞台。
さあ今度は自分自身の納得のために、1ゲームでも1ショットでも多く、最後の勇姿を見せてもらおう。
もしかして、涙がこぼれ落ちることがあるのだろうか。




